泰利学舎では、速聴を取り入れた読書の取り組みを行っています。本を読むことで、読解力、語彙力、表現力が高まり、文章を書く力も育っていきます。
今回紹介する小説は、いずれも、日本文学を代表する作家による作品です。すぐれた日本語で書かれた、豊かで奥深い小説の世界を、ぜひ味わってみてください。
「小僧の神様・城の崎にて」 志賀直哉 (新潮文庫)
志賀直哉は、「小説の神様」といわれ、対象を正確にとらえた簡潔な文章で多くの小説家に影響を与えています。この本には18編の短編小説が収められています。どの作品も読みごたえがありますが、特におすすめしたい作品が「城の崎にて」です。電車にはねられ重傷を負った作者が兵庫県の城崎温泉で療養した時の経験をもとに執筆された小説で、生と死の意味を考える内容になっています。鋭い観察力で蜂やイモリなどの小さな生き物を描写した文章は、その的確さと無駄のない文体で名文として知られています。
志賀直哉の長編では代表作である「暗夜行路」もおすすめです。
「こころ」 夏目漱石 (新潮文庫)
夏目漱石は明治から大正時代にかけて多くの名作を発表した文豪です。
「こころ」は漱石の作品のなかでも一番読まれています。「上 先生と私」、「中 両親と私」、「下 先生と遺書」で構成され、「先生」と出会った語り手である「私」が、「先生」の過去の真相を「先生」からの手紙によって知らされるという内容になっています。この小説で漱石は、人間の倫理観とエゴイズムの葛藤を表現しています。友人を裏切ったという自責の念に苦しむ「先生」の「こころ」を描いた漱石の代表作を読んで、人間の心について深く考えてみてください。
「潮騒」 三島由紀夫 (新潮文庫)
三島由紀夫は、戦後の日本を代表する作家で、美しく華麗な文章が特徴です。
「潮騒」は、伊勢湾に浮かぶ、歌島という小さな島で暮らす18歳の漁師、新治と村の有力者の娘で海女(あま)の初江との純愛小説です。作者は、この小説を書くにあたり、実際に島を訪れ、そこで綿密な取材をしています。小説では、映像が浮かんでくるほど、海や夕焼け、嵐などの自然の描写がすばらしく、新治と初江の心の動きも、非常に繊細に表現されています。ぜひ、三島由紀夫の文章をじっくりと読むことで、日本語の豊かさを味わってみてください。
この作家の作品としては「金閣寺」もおすすめです。
「山月記・李陵」 中島敦 (岩波文庫)
中島敦は、昭和初期に作家としてデビューしましたが、持病の気管支喘息(ぜんそく)のため、33歳という若さで亡くなりました。漢文調の格調高い文体が特徴で、代表作である「山月記」も中国の伝記「人虎伝」に基づいています。若くして難関の試験に合格し役人となった李(り)徴(ちょう)は、詩人として有名になりたいという野心が強すぎるあまり、虎になってしまいます。ある時、友人の袁傪(えんさん)と再会した李徴は、会話の中で自作の詩を記録することを袁傪に頼み、「尊大な羞恥(しゅうち)心(しん)」と「臆病(おくびょう)な自尊心」のために、虎になってしまったことを告白します。
中島敦の研ぎ澄まされた文章をぜひ味わってみてください。
「海辺のカフカ」 村上春樹 (岩波文庫)
最後に紹介するのは、人気作家であり、海外の読者も多い村上春樹の「海辺のカフカ」です。この小説では、15歳の少年田村カフカの物語と知的な障害があり、猫と会話ができる老人のナカタさんの物語が交互に進行し、やがて二つの物語は一つに交わります。文章は読みやすく、登場人物のキャラクターも面白いので物語にぐいぐい引き込まれます。この小説には、多くの謎がありますが、あえて作者は謎解きをしていません。読者の多様な解釈が可能な物語となっています。この作品は、国際的な評価も高く、まだ村上春樹を読んだことがないという人にも、おすすめの小説です。
以上、5作品を紹介しました。今回取り上げた作家でも、そうでなくても、もし、だれか好きな作家を見つけたら、その作家の作品を全部読むくらいの気持ちで読みこんでみてください。一人の作家を徹底的に読むことで、語彙力や表現力、文章を書く力は飛躍的に高まります。そして、それは消えることのない一生の財産になります。
これから始まるゴールデンウィーク。読書にも時間を割いて、お気に入りの作家を見つけてみましょう。
この記事へのコメントはありません。